No.18

運命の愛の作り方


 ある所にお姫様と王子様が居りました。お姫様は、凛々しく賢い王子様のことをとても好いておりました。けれども臆病なお姫様はそれを王子様に伝えることができません。とても美しく、皆から好かれるお姫様は、いつも王子様のことを見つめて居りました。
 そんなある日、素敵なお姫様の様子を聞き付けた魔女様は、お姫様に興味を持ちました。どんなお姫様なのだろうと一目見て、彼女の魅力に心打たれました。こんなに素晴らしいお姫様が王子様と結ばれないなんて。そう思った魔女様は、お姫様に声をかけました。
 素敵なお姫様、私に貴方の恋のお手伝いをさせてくれませんか? まあ、魔女様にそんなことをさせるわけには参りません。
 お姫様は魔女様のお願いを断ります。
 貴方のような素晴らしいひとがあの王子様と結ばれないなんて、私が悲しいと感じるのです。それでも私には畏れ多くて、魔女様の御力を借りることはできません。ならば私は魔女としてまじないを使わずに、一人の人間として貴方の力添えを致しましょう。
 ここまで言った魔女様の申し出に意志を感じたお姫様は、魔女様の手を借りることにしました。魔女様はお姫様のため、いろんなひとに声をかけました。美しい上に賢く、長生きをしていた魔女様は、多くのひととの縁を持っていたのです。そうしてお姫様のための素敵な衣装や、二人のための素晴らしいパーティが用意されていきました。
 魔女様はまじないを使いません。使わずに皆と居ようとしました。けれどまじないを使わない魔女なんて記憶に残らなかったのでしょうか。そのうちに魔女様が話しかけてもお姫様は上の空になり、他の輝けるひとびとに目を移してしまうようになったのです。
 めでたく結ばれたお姫様を見て、魔女様はなぜか悲しくなりました。わたしはなんのためにお姫様に尽くしたのだろう。あんなに幸せそうに居るお姫様は、魔女様のことを覚えてなんか居ないのです。隣に居る王子様はそもそも魔女様の存在すら知らないようなのです。わたしは二人が結ばれるために頑張ったわ、なのに素敵な王子様もお姫様も、わたしのことを覚えていないだなんて。
 魔女様は自らの棲家に閉じこもりました。他者の幸せを望み、それを果たしたというのに、自分のしたことを忘れられただけでこんなにも悔しい気持ちになってしまった自分を呪いました。そしてその呪いは、それまでの友を寄せ付けさせませんでした。
 陰気な日々が続いたある日、魔女様の棲家に一筋の光が射しました。それは埃の積もった物置部屋に唐突に射す、暴力的な太陽の光でした。
 魔女様、魔女様は今、どうしてらっしゃるのですか。
 それは魔女様を忘れたはずのお姫様でした。魔女様は二度とお姫様のことを見たくないと思っていたのに、なのにお姫様が来たと知るとどうしても、扉を開けずにはいられませんでした。そして扉を開けた先に居たお姫様と少しの間、視線を交わす沈黙を共有し、次の瞬間には思いの丈を溢れさせました。
 なぜ今になって現れたのですか。永く生きる間に忘れられてしまうのは苦ではありません。でも皆に脇役としてすら一度も覚えてももらえないのは、酷すぎやありませんか。なぜ王子様はわたしのことを知らないのですか。なぜ貴方でさえわたしを忘れてしまったのですか。
 咽び泣き崩れ落ちる魔女様に、お姫様は近付いて、そっと抱き寄せました。
 ごめんなさい。ひとをこんなにも想い慕うのは初めてだから、貴方のことをどう見ていいのかわかりませんでした。どう接すればいいのかわかりませんでした。そのうちに、私以外のひとが貴方に気付かなくなれば、貴方は私しか見えなくなるのではと思って、そう強く思ううちに、私にも呪いが使えてしまったようなのです。
 その告白は苦しげな言葉ではありませんでした。魔女様の知るとおりの、初めて見たときと変わらぬ優しげな声でした。顔を上げた魔女様はお姫様の瞳を見ました。その目はとても愛しいものを見つめる目をしていました。
 魔女様は呆然としました。お姫様に悪意はありませんでした。そこには純粋な欲が存在していました。
 魔女様はゆっくりと立ち上がり、棲家から柘榴の実を見つけ出すと、ある呪いをかけました。それは一年のうち、食べた数の月だけ眠りにつく呪いでした。魔女様はそれを何も言わずにお姫様とわけあい、二人で十二個食べたのです。
 その呪いを解く方法は、眠る者を真に思う人の愛でした。助けに来た王子様の愛にお姫様は目覚めましたが、起こされたお姫様の愛で魔女様が、目覚めることはついぞありえませんでした。


オリジナル

Powered by てがろぐ Ver 4.4.0 / Template by do.