No.7

文通


「あの……ここ、湯上光一さんのお宅でしょうか?
 あ、合ってた? 良かった……。
 ああ、怪しまれますよね。すみません。私は佐々木唯奈と申します。看護師をしていて……あ、わかりました? そうです。光一さんが入院していた頃にお世話させていただいてたんです。
 光一さんとは本の趣味が合って……よく感想を交換し合ってました。私は読むのが遅くて、一週間に一冊しか読めなかったんですけど、光一さんは入院中暇だからとか言って、一週間に二冊くらいの感想を求めてきました。早いですよ、もう少しペースを遅らせてくださいよ、なんて言ってたんですけど、入院生活で読む速度なんて考えてみたら、一日に二冊でも遅いかもしれないくらいだったんですけどね。
 それから退院なさって……個人的に仲良くなっていたので、連絡先を交換させてもらったんです。私はラインか、せめてメールの連絡先が良かったんですけど……光一さんは結構古い人だったんですかね? あ、やっぱりそうなんですね。私もそう思います。今時インクを使って手紙を書くのが好きなんて、結構変わってますよね。
 退院してから半年くらいはだいたい、月に二回くらいでしょうか。それくらいの頻度で手紙が来てたんです。内容はだいたい本の感想で……考察? みたいなことも書いてましたね。
 え? そうです、半年はそのペースでした。それから私の住所が変わって……一か月くらいだったかな。連絡先が変わったことの連絡を入れてから三か月くらいはご連絡がなかったんですけど、最近また月に二回くらいの頻度で来るようになったので。
 ただ数か月連絡がなかったときのことが一切語られていなかったので、まあ会いに来れる距離なんだからたまには顔を出してもと思って……え、人違い? なんでです?
 ……そう、でしたか……。
 いえ、ありがとうございます。つらいことを思い出させてしまってすみません。ありがとうございます。それでは、失礼します。」


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