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鳥啼く頃に

短編小説

No.12

ヨコシマな妄想


「めちゃくちゃ良い動画になったよ~!」

 ホクホクした様子でまいきぶいくんに感謝を述べると、まいきぶいくんは「そう? よかった」とあっさりした返事を返した。
 おそらくだが、彼らは自分の歌に誇りがあるようで、自分が歌ったら当然良いものになっていると信じているらしい。可愛いものだ。
 今回は普段の衣装とは別の服に着替えてもらって踊ってもらった。着慣れない衣装に気持ちが浮つくかと思えば、そんなことはなくそつなくこなしてくれる。最初からこういう仕事も想定しているのだろうか。

「プロデューサー、ちょっと聞きたいんだけど」
「なあに」

 見た目はお洒落でかっこいい青年だが、精神的には今月で八か月の子だ。ちょくちょく質問が飛んでくる。大概、歌にまつわる質問だろうとは思っているが、それでも彼の疑問にはなるだけ応えたい。

「歌詞なんだけど」
「歌詞? なんか難しい単語あったっけ」

 比較的一般的でキュートな恋愛歌だと思っているが、何か引っかかっただろうか。

「『ヨコシマな妄想』って何」
「う、う~んと……どのレベルで訊いてる?」

 思いがけず心理戦が始まった。いや、たぶん、一番外っ側の、マジでなんも知らないラインな気がするけど……

「どのレベルって?」

 あ~、本当になんも知らんやつだ~! 勝手に始めた心理戦を解散して説明に移る。

「ヨコシマってのは邪心、悪い感情のことでね、恋愛って相手にバレたらよくないことを考えることがあるの。それをヨコシマな妄想って歌詞にしてあるの」

 素直に一から五くらいまで説明する。十までは必要ないだろう。

「相手にバレたらよくないことって?」
「それはまあ、ひとによるからね、私からは説明できんよ」

 さすがに具体例を出したら教育、教育? に悪そうなので煙に巻いた。大丈夫だ。何も間違ったことは言っていない。私は小説書きだから、こういう「嘘でも本当でもない」ことを言うのが得意なのだ。

「そうなんだ。なんか兄さんのリアクションが面白かったから、なんかあるのかなって」
「あ~、機流音さんはね……知ってんのかな……」

 まいきぶいくんよりは年上だけどどうなんだろう。まあそういう振付でもあるし……。
 さっきの質問で湧いたやや罪悪感から目を逸らそうとするが、なんとなく考えが戻ってしまう。まあでも「ヨコシマな妄想」を知ってても知らなくても、別にいいや。
 彼の歌に、それを知っているかどうかは関係ないのだから。

#MYK_IV #日記


二次創作

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