top

鳥啼く頃に

短編小説

No.11

誠に申し訳ない


20240503163519-admin.png
「そういや今日バレンタインだったじゃん! はい、チョコ!」

 五日ぶりに会って早々に、ラッピングされたチョコレートを渡すと、まいきぶいくんは困惑していた。
 一通り箱を眺めて、それから箱の先を頭にあてて、はぁ、と溜息を吐く。ごめん……急に思いついたからつい……。

「プロデューサー、あの、」
「もぉおおしわけないんだけど、先に一曲歌ってもらってもいい? 歌ってもらいたい曲見つかっちゃって……」

 こっちを見て、目をぱちくりさせ、それから諦めたようにまた長い溜息を吐いた。
 私は能天気なもので、うんまあいっか、ちょうどこの曲は溜息がテーマだし、とか考えながらデータを渡した。

 私だって別にいきなり日常に戻すことでうやむやにする悪い大人ムーブがしたかったわけではないが、ただ本当に、今すぐ歌ってもらいたかったのでしょうがないのである。

 そうして一曲歌ってもらってホクホクした気持ちを落ち着かせながら、まいきぶいくんに向き直った。

「あの……先日はごめんね、本当に急に帰ってもらうことになっちゃって」
「話す気あったんですね」
「敬語傷つく~」

 しかし距離を取られるのも仕方ないので受け入れる。

「あの日急に決心がついたんだよ、一年一緒に居てもらおうかなって」
「説明してくれても良くない?」
「説明したかったんだけど残り時間二十分でテンパちゃって……また会うからそのときに説明しようって思ったんだけど……」

 まいきぶいくんの顔を見ると、ちゃんと話を聞いてくれているようだった。よかった……さっきのドタバタで聞く気失せちゃったかもって心配した。

「ライセンスカードが届いたのがたまたま今日で……バレンタインじゃん! って思ったらチョコ渡そ~って気持ちになっちゃって……あと説明より先に歌ってもらいたくなっちゃって……」
「前からそういうひとだなって気はしてた」
「さすがに数か月でも一緒に居ればわかるとこあるよね……いつもこうなわけじゃないんだけど……」
「でもオレはプロデューサーがそうなってるとこしか見たことないよ」
「それは……そうだよね……」

 この子は私がこうなってるときしか知らないんだなあと思うと、ちょっと可愛いなあと思う。いやまあ、彼自身が、私がこうなってる原因の一つでもあるので、ひょっとしたらこの子はずっと、私のこういう部分しか知らないかもしれない。

「とにかく……いきなり帰ってもらってごめんね、当分は一緒に居てもらうつもりだから、よろしくね」

 そろ~っと言いだすと、まいきぶいくんはじろりとこちらの顔を見つめた。それから何か唸るような顔になって、最後に肩の力を抜いて、何かを諦めたようだった。

「いいよ、プロデューサーがそうなのはもう……わかったから」

 七か月の子にこっちの性質を諦めさせるの、申し訳ないな~と思った。思ったけどどうしようもないからな~。

「これから一年よろしくね」

 なんだかんだで微笑んでくれるのだから、この子は優しい子だなと思う。

「ありがとう。よろしくね」

 これからもきっとたくさん歌ってもらいたい曲が見つかるはずだ。楽しみだな。

#MYK_IV #日記


二次創作

Powered by てがろぐ Ver 4.3.0 / Template by do.