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鳥啼く頃に

短編小説

No.1

走馬灯


 君の温度を知ったのはいつの日だったろうか。確か、あれはもう十年、いやそこまでではない……数えてみれば、八年前か。好きな小説家の新刊が出ると聞いて、私はどうしても本屋で、それと出会いたくて、近くのショッピングモールまで向かったのだった。まず文庫本のコーナーに向かったはいいものの見つからなくて落ち込んで、周りをひとしきりうろついてから、新刊コーナーの存在に気がついた。正面に開かれたコーナーまで向かって、これが意外に作品傾向がざっくばらんで、近眼の私は端から端まで睨みを効かせることになった。そしてようやく目当ての本を発見できて、勢いよく手を伸ばした拍子に、なにか冷たいものとぶつかった。反射で顔を上げて、ぶつかった方へ頭を向けたら、今度は視線がぶつかった。すみません、驚かせましたか、先にとっていいですよ。あ、はい……私、そんなに驚いた顔してましたか。ありがたく本を先にとってから、そう問いかけると、君は私と同じ本を取りながら、体質みたいで、手が冷たいんです。みんな驚くので。と答えてくれた。それは本当だった。いつ君の手に触れようとも、いつも君の手は冷たい。ああでも一度だけ、違うことがあった。薬指に指輪を通してもらった、それはそう、今の話。

#小説 #結婚 #温度


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